「価格競争」を紐解くと、いろんな問題点が見えてくる

 人は、どのようなことに興味を持っているのか、あるいはどのようなことに共感するのか、なかなか分からないものですね。



 今日は、午前中ひょんなことからこんなことをTwitterでつぶやいたら、何かやたらとRTやら@リプライをいただいたんですが、何か皆さんも普段からこういうことを感じてらっしゃるんですか?何か、予想外のリアクションだったので、ここからいろいろ話を広げて書いてみたいと思います。たぶん、まとまりはないですがw

何で価格を下げるのか


 こういう記事って、以前もどこかで書いた気もしますが、日本はここ何年もずっと、様々な業界で価格競争が繰り広げれていますよね。牛丼業界なんかはその最たるもので、こうした話題をする際にはよく取り上げられます。その熾烈さと言ったら、「そんなに価格を下げて儲かるの!?」と他人事ながら心配になってしまうほどですよね。


 では、そもそも何で企業はそんなに価格競争に走るのでしょうか?わざわざ自らの利益を削るような方向に、何で全力で走っていくのでしょうか?不思議ですね〜。まあ答えは単純、「売れないから」ですよね。日本は、失われた20年などと言われている上に、リーマンショック、さらには先の東日本大震災と、景気は長いこと上向いてきません。


 こうなると、やはり消費者の購買意欲は落ちてしまいますよね。しかも、それに追い打ちをかけるかのように、マスコミや経済学者があまりにも景気の悪さを煽るもんだから、余計に買わなくなります。それにより、商品やサービスを提供する側の企業からすれば、自分たちの商品・サービスがどんどん売れなくなっていくわけですね。そこで出てくるのが、この「値下げ」ということになるわけです。(あ、分かりやすく書くために、極力ストレートに、単純に書いていきますので、細かいことは省きますね。)


 何で値下げをするのかといえば、もちろん売れるようにするためなんですが、もっと言うと、値下げして一客当たりの利益を削ってでも、一客購入点数や購入頻度、顧客数を増やす、あるいは減らさないようにするわけです。さらには、ライバル企業に、顧客が流れないようにするわけです。

消耗戦に入った日本企業


 とはいっても、当然のことながら、こうしてどこか一社が価格を下げれば、それを追随するようにライバル企業も価格を下げていきますよね。そして、それがエスカレートして、牛丼業界のようになっていく。簡単にいえば、こういう流れになっているわけです。価格でお客さんを奪う。でも、価格で奪ったお客さんは、価格で奪われるのです。こういうやり方に、ハッキリ言って未来はありませんよね。


 だって、こうして価格競争が激化していけば、いずれ企業は売っても利益が出ない、あるいは販売時は赤字で後からストックビジネスで儲けるんだ、みたいな状態に必ず入っていきます。事務機器業界の複合機の世界なんかは正にそうで、販売時は赤字ででも本体を獲りにいって、後のカウンター料金で儲けるというスタイルが昔からありますが、現在は、そのカウンター料金さえ下落してきていますから、このストックビジネス自体がいずれ成り立たなくなることが予想されています。


 もうこれは、“消耗戦”です。自分たちで自分たちの首を締めちゃっていますよね。そして、経営が成り立たなくなってくれば、コスト削減に走ることになるわけです。コストというのは、具体的に言えば「人・モノ・金」の経営三要素と言われるものです。ですから、リストラもするし、設備投資も凍結するわけですね。


 こうして分かるように、ほとんどの日本企業には経営上の課題を整理して落とし込む基盤が「人・モノ・金」しかありませんから、景気が悪くなれば、そのどれかに手をつけざるを得ません。数年前に、「派遣切り」や「工場のライン停止」が話題になりましたが、リーマンショックに絶えられなかった企業がとった手段は、正にこれらの削減だったのです。

縮小市場に規模の論理で挑むという矛盾


 こういう消耗戦に突入すれば、最後に勝つのは規模の大きな会社である場合が多いです。そのためと言ってはなんですが、ここ数年、日本においても大きなM&Aが多数ありましたよね。百貨店もM&Aの嵐でしたし、保険業界や石油業界なんかもそうです。いろいろな業界において、規模を大きくすることで、その危機を乗り切ろうという動きが巻き起こったわけです。


 でも、こうしたM&Aというのは、よくよく見てみれば、規模を拡大して、人員や物流、仕入を統合したり、再整理したりしているわけで、つまりは、「人・モノ・金」の削減に変わりはないですし、厳しい言い方をすれば、経営者が本質的な問題を先送りして、目先の経営が立ち行かなくなる不安から逃れようとしているだけとも捉えることができるのではないかと思います。


 それに加えて、「この時代に規模の論理で勝負してどうするの?」という問題もあります。というのは、皆さんもご存知のとおり、日本は少子高齢化に成熟化という二つの波が同時に押し寄せていて、これから市場は“何もしなければ”みるみると縮小していきますよね。(ちなみに、成熟化というのは、「商品の成熟化」と「人間の感覚の成熟化」の二つがあって、商品ではその機能や品質に大差はありませんし、人々ももうほとんどのモノは事足りているわけですから、余計なものをわざわざ買わないという両面の成熟化があります。)


 そうして市場がどんどん縮小していく時代を迎えるに当たり、むやみやたらに規模を大きくすることで、はたして企業は成長していくことができるのでしょうか?いや、海外市場があるじゃないか、新興国があるじゃないかと言う声が聞こえてきそうですが、海外は海外で、国際的な競争になりますし、今、新興国として世界中が注目している国でさえ、いずれは日本のように成熟化する時代がやってくるわけです。そうなった時に、今度はさらに後進の市場に攻めて行くのでしょうか。そうして、同じことを繰り返すのでしょうか。それでは、あまりにも脳が無いですよね。

ようやく「顧客」に目が向いてきた


 では、どうするのかというところで、先ほど僕が“何もしなければ”と書いたところに戻ります。“何もしなければ”。そこで、何かをすれば良いわけですよね。それは、何なのかというのが、顧客戦略だったりするわけで。「そんなもんあるよ!」という声が聞こえてきそうですが、本当にあります?日本企業には「お客様第一主義」というお題目はあっても、本当の意味で顧客に対して根本的な方針を打ち立てて実行している企業なんて、ほとんど無いと思います。


 バブル前まで、つまり成熟化してくる前までは、それでも売れたんです。高度経済成長期は、流通にモノを乗せさえすれば飛ぶように売れたわけですし、人々はこぞってモノを満たすことに躍起になりましたよね。今の外国の某国みたいに。しかし、成熟化に少子高齢化で、どんどんモノは売れなくなってきたわけです。でも、企業は高度経済成長期の経営手法を変えなかった。変えなくても、どうにかこうにかやってこれたわけです。でも、もうそれもそろそろ立ち行かなくなる。←今ココなわけです。


 そして、いよいよ顧客が大事だよという時代になった。だからこそ、近年CRMSFAへの注目度は日に日に高まっていますし、ソーシャルメディアが普及してきたことで、それを使ってエンゲージメント(僕はこの言葉は嫌いですが)を高めるんだとか、そういう流れになってきていますよね。そして、顧客と関係を深めて、LTVを最大化させましょうみたいなことが考えられているわけです。

消耗戦ももう限界だよ


 そうなってくると、“何もしなければ”の解にもなってくるわけで、LTVを最大化させるばかりか、需要を創造できたりもするんですね。だって、日本人は何だかんだお金持ってますから。いくら成熟化と言っても、もっと便利な生活やモノがあれば人々は欲しいわけですし、企業も顧客と関係を深められていない故に顧客が求める価値も分からないわけで、そこがきちんとクリアできれば、日本の市場だって捨てたものではないと思います。


 ただ、問題なのは、日本にはCRMSFAの専門家があまりにも少な過ぎること。だから、CRMをろくに分からない人たちがCRMを語ってるし、CRMをろくに分からない人たちが「時代はソーシャルCRMだ!」とか言って騒いでるし、それを聞くクライアントもCRMが分からないから、「ああ、そうなんだあ!」と間違った認識をしてしまう。こうして、日本のCRMは一向に進まないわけです。


 まあ、このあたりのCRMの話は、そのうち別途整理してお話ししますので、今日はこの辺りにします。冒頭の価格競争から話が膨らみましたが、その価格競争を紐解いていくと、こういういろんな問題点が見えてくるということです。それが、表面に現れるのが購買行動であり、その指標である価格であるわけですね。「人・モノ・金」を経営基盤とした経営から、それに「顧客」を加えた経営へと進化していかなければならない。価格競争で体力が限界に来ている日本企業は、もうその時を迎えているんだと思います。