企業がiPadを活用できない理由は、単純なことが難しいから

 さてさて、こちらのブログもブログ引越し以来まだ一度も書いていないので、先日セミナーでの話題を元に、少し書いてみたいと思います。ちなみに、こちらのブログには、経営やマーケティングにおけるアイディアやヒント、解説みたいなことを書いていきます。そして、2ndブログの『Connect the dots of my life』の方には、それ以外のコンテンツを書いていきたいと思います。


 で、先日行ってきたセミナーというのが、こちら。テーマは『iPadで売上を伸ばす唯一の方法』というもので、お世話になっている(会社的にではないです)株式会社ブレアコンサルティングの服部隆幸さんが講演されたものです。


 まずは、私的メモ的にTwitterにツイートしたものをまとめたので、載せておきます。











セミナー『iPadで売上を伸ばす唯一の方法』のメモ - Togetter


 さて、私的メモはこれぐらいにして、いろいろと内容を交えながら感じたことを書いていきたいと思います。

初代iPad発売から一年


 初代iPadは、日本でも発売から間もなく一年が経とうとしています。先日はiPad2も出ましたし、まだ一年も経っていないのかと思うと、この広がりはなかなかのものですよね。私も、昨年手に入れましたが、すっかり無くてはならないものになってきています。


 そんなiPadですが、企業においてもビジネスで活用するんだということで、多くの企業が導入してきましたね。おそらく最初にプレスリリースを出した大塚製薬をはじめとした製薬業界、自動車業界、家具業界などなど、大手企業を中心に、この一年の間に、結構な数の企業で導入が進んでいったのではないかと思います。


 その一方で、入れたは良いもののどう使って良いのやらと迷う企業も多くいたのではないでしょうか。“多くいた”というか、ほとんど全ての企業が、そこでもがき苦しんでいるように思います。それでは、企業のiPad活用はどこでつまずいてしまっているのか、原因は何なのか、この辺りを少し紐解いていきたいと思います。

iPadは本当に革新的なデバイスなのか


 昨年の発売以来、企業は「これは革新的なデバイスだ」と言って、iPadに飛びつきました。美しい動画を見せられる、卓上においてお客様と見ながら対話できる、即座にネットに接続できる、電子カタログになる・・・等々、これまでに無いタイプのデバイスとして、注目したわけです。


 でも、こうした革新性というのは、実は半分は当たっていて、半分は間違っていると私は思っています。もちろん、ビジュアルは美しいですし、起動スピード等の煩わしさもありませんし、紙の資料を持ち歩かなくても良いなど、こうした良さはたしかにあります。しかし、iPadでなければこれらの全てができない訳でもありませんし、パソコンや紙の方が優れているところもたくさんあるわけです。


 例えば、カタログとかだって、実際は紙の方が見やすくありませんか?ビジュアルが美しい、簡単に拡大してみることができると言ったって、紙の方がパラパラと見たいページをすぐに、そして比較しながら見ることができて、見やすいですよね。これは、慣れの問題とかじゃなくて、そもそもそういうものだと思うのです。


 まあ、そんな革新性に注目してiPadの導入を決めた企業は結構たくさんあるわけですが、きっとほとんどの企業はお客様に“見せる”というところ止まりなのではないかと思います。つまり、「社内に死蔵したデジタルデータを全部iPadに突っ込め」、「紙カタログを削減して電子カタログを作れ」、「お客様の関心を調査するために、お客様が見た資料のログを取れ」というふうに、とにかく電子化してiPadに入れて、お客様に見せて、そのログを取るというところで、止まってしまっているのではないかというわけです。

企業がiPadを導入する本来の目的


 では、ちょっとここで原点に立ち返ってみましょう。そもそも、企業はなぜiPadを導入しようと思ったのでしょうか?
「革新的だから?」
「珍しがられて会話が弾むから?」
「モテそうだから(笑)?」
 違いますよね。これを上手く使えば『売上が上がるんじゃないか』、『お客様の課題解決になるんじゃないか』。ビジネスで導入するわけですから、こうした費用対効果を考えて、導入したわけですよね。


 では、上記のような方法で、果たして、こうした狙いは達成できるでしょうか?もっと言うと、お客様に電子化したコンテンツを見せることで、お客様の課題が解決できて、売上が上がるのでしょうか?答えは、「?」ですよね。これじゃあ、費用対効果も出なくて、iPadを導入した意味が無いですよね。


 でも、現実として、多くのiPad導入企業がこのような状況に陥ってしまっていると思うのです。

iPad導入企業はなぜ失敗したか


 それでは、何でiPadを導入した企業の多くは、このような状況に陥ってしまったのでしょうか?その原因の一つは、iPadの機能からできることを考えた結果であると私は思っています。iPadはこんな機能がある、これもできる、こんな特徴があるというところから、何が出来るのかを発想しているということです。そうじゃないですよね。大事なのは、これまで企業がやりたくてもできなかったことを、iPadならどう実現できるかという、逆の発想で考えることだと思います。


 そして、原因の二つ目は、一つ目にも関連しますが、こうしてできることから発想して電子データをどんどんiPadに格納したは良いですが、結局見せることしか考えていなかったということだと思います。たしかに、お客様に見せるんですけど、見せることしか考えていないのではダメだということです。何だか、意味分かんないですねw


 つまり、「見せることが目的になってしまっているのではないですか?」ということです。iPadはビジュアルはたしかに美しいです。私も最初は「おぉー!」と思いました。でも、もうiPadが珍しがられる時代は終わりました。ある企業は、プレスリリースで話題になっただけで、元は取れたというようなことを仰っているそうですが、そうじゃないですよね。


 じゃあ、何で見せることが目的ではいけないのか。それは、お客様だって、自分が見たいiPadコンテンツを選別するからです。お客様は関心がないものは見ないわけです。iPadに限らない、極めて当たり前の話ですよね。iPad発売当初は珍しがられたかもしれませんが、今はもうそんな時代ではないのです。そもそも、発売当初だって、お客様はiPadに興味があったのであって、つまらないiPadコンテンツには興味がないわけですからね。

単純なことが一番難しい


 そんなこんなで、企業はiPadの活用に困り果ててしまったわけです。企業というのは、具体的には企画やマーケティングのiPad導入を促進した部隊です。そうなると、次に何が起こるかといえば、営業員・販売員がせっかく導入したiPadを使わなくなるんですね〜。そりゃそうです。お客様が見てくれなければ、営業員はiPadを使いません。顧客に二度は見せられないコンテンツは、営業は二度見せることはありません。お客様に支持されることによってのみ、営業は使い続けるわけです。


 ということは、逆に考えれば、お客様が見続けてくれれば、営業員はiPadを使い続けてくれますし、お客様が見続けるように創れば、営業員はiPadを使い続けるということになりますよね。さらに言えば、一度見せて効果が出たコンテンツは、営業員は何度でも使いますし、費用対効果が出れば、会社は喜んでお金を出してくれるわけです。世の中、単純です。でも、単純なことが一番難しいんです。

ゴールは最初の一歩の前の準備で決まる


 段々、核心に迫ってきましたね。ここをクリアすることで、お客様にただ単に見せるというものから、目的を持って見せるというものに変わり、お客様との対話を促進するものに変わり、お客様の購入プロセスを進捗させるものに変わり、お客様を自社のロイヤルカスタマーにしていくものへと変わっていくわけです。


 そのためには、やっぱり初期設計が大事になってきます。これは、CRMSFAなどでも同様ですよね。初期にどういう理論、戦略、シナリオ、アクション、ツール等を持って設計するかが非常に重要なことなのです。そして、次にやるべきは、そうした初期設計をもとにした、自社メディアとデバイスの再整理ですね。


 メディアも最近はトリプルメディアなんて呼ばれていますし、デバイスもこのiPadからアナログの紙のDMにいたるまで、非常に多くの媒体が存在します。これらをしっかりと整理し、5W1Hを考えていくことがとても重要なのではないかと思います。

RPGは手のひらで踊らされていた!?


 また、コンテンツやそのコンテンツを誰に、いつ、どのように使うか等を考える際には、服部さんの仰る客観誘導理論を織り込むことも欠かせないと思います。客観誘導というのは、話せば長いのですが、一番私たちが身近で感じられるのはゲームのロールプレイングゲーム(以下=RPG)ではないかと思います。


 RPGには、ドラゴンクエストファイナルファンタジーなど、たくさんの名作がありますし、きっとそのどれかは遊んだことがあるという方も多いと思います。私も子どもの頃は、いろいろとやりましたが、ああいうRPGって、プレーヤーが自分で考えて、自分で選択して、最終的な大ボスを倒すまで冒険をしているのかと思いきや、実はクリエイターの手のひらの上で踊らされているだけだったんですね。


 私も、昨年クリエイターの方のお話を聞く機会がありましたが、「マジかよ!?」と思うほど、面白いように誘導されていることが分かりました。ポイントは、誘導されているんだけど、自分で選択したようにプレーヤーに思わせるということですね。これを、RPGの世界だけではなく、ビジネスでも、iPadコンテンツでも、シナリオ作成にでも応用して、作っていくということが大切なわけです。


 客観誘導の“誘導”という言葉だと、「お客様を誘導するなんて何たることか!!」とお叱りが飛んできそうですが、あくまで、分かりやすく表現するために、こういう言葉を用いてますので、悪しからず。ちなみに、この客観誘導等の解説等も含めた本を、今年の夏頃に服部さんが出されるということも仰っていましたので、興味のある方はぜひそちらもご覧になってみてください。

営業員の第二の脳へ


 iPadのコンテンツやシナリオを作るとなると、この客観誘導理論の他にも、SFACRMの設計理論や、プロセスを進捗させる映像やツールの制作理論など、お客様に見せるためには、そのバックグラウンドに、様々な理論と経験値が必要になってくるわけで、ただ単に電子化してiPadに突っ込みましたで、対応できる世界ではないのです。だから、多くの企業が困り果てているわけですね。


 しかも、こうした意味のあるコンテンツを制作してくれる企業が無いというのも問題だと思います。これは現状、コンサル会社や広告代理店、コンテンツ制作企業でも提供できていません。だからこそ、困っているということもありますよね。別に私は回し者ではありませんが、現実的に、服部さんが代表を務める株式会社ブレアコンサルティングでは、この辺りも含めてトータルから局部の設計までしてくれると思いますので、ご興味のある方、困り果てている方は(笑)、ぜひご連絡してみてはいかがでしょうか?


 単純なことが難しい。iPad導入企業にとっては、このことがよ〜く分かったこの一年間だったのではないかと思います。とは言え、今もまだまだiPad創生期。これから次の一年で、iPadのビジネス活用がどう変わるか、期待も込めながら注目していきたいと思います。しっかりとしたコンテンツと活用プロセスが整備されて、iPadが“営業員の第ニの脳”として、本来の力を発揮する日が早く来ると良いですね。