『人・モノ・金』経営の限界と『顧客戦略』という新しいパラダイム
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今回の経済不況に、多くの企業が苦悩していますね。
昨朝、私は朝の身支度をしながら、いつものようにめざましテレビ を観ていました。
すると、様々な企業がこの不況により値下げに取り組んだが、思ったほどの売上が上がっていないというニュースが報じられていました。
ながら視聴でしたので、それほどじっくりは観ませんでしたが、ニュースでは、吉野家 やドトールコーヒー などが、値下げしてもお客さんが増えず、結果として業績が低下しているとのことでした。
一方、好調な企業としてケンタッキー が挙げられていましたが、ケンタッキーは他社と比べて何か特別なことをしたのかというと、そうではなくて、ただ単に新商品が当たっただけというのが私の見方です。
さて、昨朝のニュースでは、結局、各企業が揃って値下げをし、体力勝負をしているということがテーマだったわけですが、この視点は、今の日本企業の現状を正に指し示した視点と言うことができると思います。
今回の不況に限らず、これまで景気が悪くなった時に、日本企業がとってきた行動はどのようなものかを考えてみましょう。
まず景気が悪くなります。
すると、次に足元の消費者の購買力が落ちて、モノが売れなくなります。
そして、次にするのが、今朝のニュースで取り上げた値下げです。
要は、値下げして一客当たりの顧客の利益を落としてでも、購入顧客数を増やす、あるいは減らさないようにするわけです。
しかし、こうした値下げは、どこかが下げれば、周りの競合他社も当然ながら値下げします。
すると、顧客数を維持するには、さらに値下げをしなければならなくなります。
それは、競合他社も同様です。
では、その先どうなるか。
度重なる値下げによって、その業界各社は、もう売っても利益が出ないような体制になってしまうわけです。
つまり、自分たちで自分たちの首を絞める、いわば“消耗戦”を繰り広げることになってしまうんですね。
そして、利益が出なくなるとどうなるか。
いよいよ人の削減、設備投資を抑える等のモノの削減、あるいは、M&A によって資本を増強し、その後、効率化の名の下での徹底したコストの管理・削減。
つまり、かつて経営の三要素と言われた『人・モノ・金』の削減に一斉に走るわけです。
というか、走らざるを得ないわけです。
なぜなら、ほぼ全ての日本企業は、課題を整理して落とし込む経営基盤が、『人・モノ・金』しかありませんから、景気が悪くなれば、そのどれかに手をるけざるを得ないのです。
これまで世間を騒がせた派遣切り、正社員切り、工場の稼働停止、減産、あらゆる業界でのM&A、毎日の新聞紙面に上るニュースは、元を辿れば、その多くが『人・モノ・金』の削減に行き着きます。
それは、日本企業が『人・モノ・金』の経営基盤しか、未だ持ち得ていないことの証拠とも言えるのです。
さて、話は昨朝のニュースに戻りますが、値下げしても消費者がモノを買わない現象を、皆様はどう捉えるでしょうか。
また別な見方をすれば、自分がお客さんの立場になって考えた時に、値下げしたからドトールに行こう、値下げしたから吉野家に行こうと、そのように思いますでしょうか。
もちろん、価格はモノを買う上では重要な要素であるのは間違いありません。
しかし、そんなに消費者は単純なのか、そんなに消費者にお金が無いのか、よくよく考えると、各社の値下げ戦略には大きな疑問符が付くのではないかと思います。
値下げによってその店にお客さんが走らないわけではありません。
ただ、先も述べたように、値下げは競合他社も負けじと対抗してきます。
すると、値下げによって自社に来ていたお客さんは、他社の方が安くなった瞬間に、他社に流れるのは明白です。
しかも、値下げ値下げと過酷な競争を繰り広げるのにも限度があります。
昨朝のニュースのように、値下げして利益が出なくなっては、元も子もありませんし、そんな消耗戦を続ける体力はほとんどの企業には無いはずです。
さて、ここからが本題です。
企業は、景気が悪くなってモノが売れなくなった結果、値下げ等に走るわけですが、これは何のためにやっているのかと言えば、お客さんにモノを買ってもらって利益を上げるためです。
そうです、利益を上げるためには、お客さんにモノを買ってもらわなければならないのです。
しかし、値下げをしても、お客さんはモノを買ってくれなくなりました。
値下げという身を削った企業の“方針”が、当のお客さんには響かないのです。
それも、時代背景からすれば当然なのかもしれません。
今は、モノが無かった高度経済成長期ではありません。
人々にも、企業にも必要なものが溢れる成熟化社会です。
そして、商品もサービスも成熟化し、昔で言う三種の神器のような、生活を劇的に変えるような商品は、ほとんど無くなりました。
こうした成熟化社会においては、人々は本当に必要なものしか買わないのは当たり前です。
しかも、娯楽も多様化していますから、お客さんによって、興味の持ちどころも様々なのです。
そんな時代である今、ただ単なる値下げで振り向くほど、お客さんは単純ではないということです。
値下げという戦略とも言えない“方針”に、お客さんはもう騙されないのです。
そもそも商売というのは、その全てにおいて、成立するにはお客さんが「買います」と言わなければなりません。
企業がいくら企業側の都合で、商談を進めて行っても、最終的に買うかどうかを決めるのはお客さんなのです。
既存のSFA が導入したほとんどの企業で上手くいかないのも、企業側の都合で作られた1本のビジネスプロセスしか追っていないからです。
企業側の論理で作られた1本軸のビジネスプロセスでは、見積もり提出までは行ったとしても、その先は企業の思うようにはいきません。
なぜなら、買うと決めるのはお客さんだからです。
お客さんの状況、都合を無視して、企業側の論理で物事を考えているが故に、ビジネスプロセスは契約へと進捗していかないのです。
そして、また別な見方をすれば、お客さんは買うと決める決定権を持っているのと同時に、企業にとっては、売上や利益をもたらす唯一の存在ということができます。
顧客こそが、自社に売上や利益をもたらす唯一の存在なのです。
しかしながら、ほとんどの企業は未だに社内の『人・モノ・金』だけを経営の基盤と捉え、それを管理・削減することにしか目が向いていません。
もちろん、高度経済成長期からバブル期までは、『人・モノ・金』は経営に欠かせない資産でした。
その時代に成功していた経営者に、経営の重要な要素は何かを問えば、『人・モノ・金』と答えたに違いありません。
やがて、時代が移り変わると、『人・モノ・金』をいかに効率化し、売るための技術を高めるかということに、多くの企業が目を向けるようになりました。
それが、今なお続いているわけですが、ここでも、依然として経営の基盤として存在しているのは『人・モノ・金』だけです。
企業は、なぜに社内の『人・モノ・金』というコストだけを経営の基盤と捉え、売上や利益をもたらす『顧客』に目を向けてこなかったのでしょうか。
よくよく考えればおかしな話であることに、このブログを読んでくださっている皆さんなら気付くはずです。
しかし、事実、ほとんどの企業は、これまで顧客に真の目を向けることをしてきませんでした。
なぜでしょうか。
それは、今回の世界同時不況前までは、それでも売れてきたからです。
しかし、ここに来てこの大不況です。
多くの企業で、モノが一気に売れなくなり、業績が急激に悪化してきました。
世の中は混乱し、困り果てましたが、結局その対応策は、ひたすら『人・モノ・金』の管理、削減することでした。
しかし、その対応策ももう限界でしょう。
この『人・モノ・金』経営の末路は、もう皆さんも実体験として、あるいはメディアを通じて嫌というほど思い知ったはずです。
派遣切りにあった人は、寮からすぐに追い出され、冬の寒さの中ホームレスにならざるを得ませんでした。
トヨタ では、これまでコスト削減により3000億円もの削減効果を上げましたが、ここに来て社員のボールペンの本数まで管理するんだそうです。
そして、ゴールデンウィークが16連休なんていう会社もあります。
新入社員に6月まで自宅待機をさせ、その先どうなるかは未定というような会社もあります。
どうですか、これが幸せな社会と言えますでしょうか。
顧客も社員も取引先も、皆全て人間なのです。
人間に将来の夢も希望も託さなければならないのに、『人・モノ・金』だけにフォーカスしているところに、今の日本企業の経営が抱える問題も、これから解決すべき答えもあるのです。
では、これからの経営に必要な要素とは何なのか。
それが、『顧客戦略』なのです。
これまでの『人・モノ・金』がいらないということではありません。
これまでの『人・モノ・金』に加えて、新たな経営の要素として、『顧客戦略』が必要なのです。
日本のほとんどの企業の企業理念には、「お客様第一主義」という言葉があります。
それでは、その企業ではお客様に対して一体何を行っているでしょうか。
日本の多くの企業では、「お客様第一主義」という理念を抱えていながらも、真の『顧客戦略』を構築し、実行している企業がほとんど無いというのが現実なのです。
先にも述べたように、日本は完全な成熟化社会です。
そして、それに加えて少子高齢化がこれからますます加速していきます。
すなわち、成熟化でモノが売れない上に、人口が減少するわけですから、市場(パイ)はみるみる縮小していくのです。
放っておけば、企業の業績は黙って悪化していくのがこれからの日本なのです。
景気は波がありますから、いずれは回復に向かうでしょう。
しかし、この成熟化と少子高齢化によるパイの縮小は、回復するものではありません。
景気が回復すれば、多くの企業では、再び『人・モノ・金』の増強に動くでしょう。
では、企業が『人・モノ・金』の経営基盤しか持たないまま、10年後再び景気が悪くなったらどうなるでしょうか。
答えは見えています。
三度、『人・モノ・金』の管理・削減に走るに違いないのです。
つまり、『人・モノ・金』しか経営の基盤を持たないうちは、経営は常に景気の波に左右されることになるわけです。
そして、パイは年を追うごとに縮小していきます。
これからの時代、企業に求められるのは、間違いなく『顧客戦略』なのです。
顧客を中心に据え、顧客との対話により、顧客を発見し、創造し、育成し、ケアし、需要を創造する。
また同様に顧客との対話により、案件を発掘し、案件を獲得し、案件のケアをし、顧客に再購入していただき、顧客LTV(生涯獲得利益)の最大化を図る。
さらには、顧客との対話により、製品開発をし、製品のケアをし、製品の改良をする。
つまり、企業の活動の全てを、このように顧客を中心に置いて、顧客と企業が双方向の関係を保って、対話を繰り返しながら、双方の目的を達成していく。
そして、顧客と企業が共生・共歓・共育関係を気付いていく。
これこそが、これからの時代、企業が目指すべき姿であると言えるのではないかと思います。
思い出してみてください。
高度経済成長期、日本には洗濯機も冷蔵庫もありませんでした。
主婦は毎日大家族の洗濯物を、1つ1つ手でごしごしと洗っていたのです。
企業は、その姿を当然ながら知っていました。
当たり前です、自分の家庭の奥さんも営業先の奥さんも皆がそうだったのですから。
そこで、企業は考えたわけです。
「どうにかして、世の主婦たちのあの重労働を軽減できないものか」と。
そういう主婦(お客さん)のことを考えに考えて出来上がったのが、あの洗濯機だったのです。
営業はすぐに営業先の奥さんのもとに走りました。
そして、その画期的な製品を主婦に紹介したのです。
生活を劇的に変える洗濯機は、当然のように売れていきました。
その便利さに主婦は、もちろん大喜びです。
そんな主婦の喜ぶ姿を見て、営業もとっても嬉しく温かい気持ちになりました。
お客さんと関係を深め、お客さんの状況をよく知り、それをもとに商品を作り、出来上がった商品をお客さんに紹介し、それを買っていただき、その効果にお客さんがとても喜んで、それを見た営業もとても嬉しくなる。
こんな日本の古き良き商売のあり方って、とても大切だと思いませんでしょうか。
そして、お客さんと企業との関係が希薄になった今、こういう商売のあり方がほとんど無くなってきているのです。
顧客を慮り、顧客と関係を深め、顧客基点で物事を考え、顧客基点で製品を作り、顧客に最大の価値を提供し、顧客からのLTVを最大化する。
こうした古き良き時代の経営を取り戻すことが、これからの時代を生き抜くためには必要なのです。
そして、それを実現するのが『顧客戦略』であるということです。
今回の世界同時不況は、見方を変えれば、時代のコマを早送りしたと言うことができます。
つまり、成熟化と少子高齢化によってパイがみるみる縮小し、モノが売れなくなった時代を疑似体験できたということです。
少子高齢化や人口減少、パイの縮小などは、ある日突然減るというものではなく、徐々に徐々に減少していくものですから、こうした大不況でも起こらなければ、多くの企業はまるで茹で蛙 の如く茹で上がってしまったかもしれません。
しかし、この世界同時不況により、本当にモノが売れなくなる社会をちょっとだけ体験することができたのです。
そういう意味では、この世界同時不況も見方によってはラッキーだったと言えるのかもしれません。
そして、今この不況時に行うべきことと、この先パイが縮小した時代に目指すべきことは、実は同じことだったのです。
欧米や日本のごく一部の企業は、真の『顧客戦略』を構築、実行し、大きな成果を挙げ始めています。
しかし、日本企業のほとんどは、日々の新聞紙上で状況を見れば分かるとおり、そこに全く目が向いていません。
企業にとって売り上げや利益をもたらす唯一の存在である顧客をケアすることこそ、この不況時の今、そして、これからのパイが縮小する社会で、企業がとるべき戦略なのです。
それに気づき取り組んだ企業は勝ちますし、そこに気付かない企業は、間違いなく衰退の一途を辿ることになるでしょう。
時代は、今まさにパラダイム を変換すべき時を迎えているのです。
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